2005年
 つぶやき

6/1
◆言うまでもない
 学内の人事計画についてレクチャーを受ける。
 人のことをきちんと考えている人がいるのだ。
 話は一々もっともで、うなずいてばかりいると
 「すっかり隠居気分ですね」と、これも図星。
 次期の管理職の人事が話題になりかけたので
 あわてて「ぼくは管理職に不適」と言いかけたら
 「ええ、ですから……」と言葉を継がれる。
 ぼくの無能さは自明の前提らしい。
 ちょっと恥ずかしかった。

6/2
◆立ち往生
 看護専門学校へ教えに行くのが辛くなった。
 大学なら、講義がつまらなければ欠席者が増える。
 つまり、聞きたい人だけが残る。
 看護学校は刑務所のような形態をとり
 座席が決められていてエスケープ不能。
 聞く気のない人を相手にしゃべるのは辛いよ〜。
 半数の居眠りは前回と変わらないが
 今回は残る半数が私語や「内職」に励む。
 叱るのはぼくの「禁じ手」だから
 受講者の気を引きつけるようなネタを並べる。
 しかし、こちらに顔を向ける人の数はいっこうに増えない。
 途中でむなしくなって話をやめる。
 まだ1時間もたってないので帰るわけにもいかん。

6/3
◆孤食
 大豆の水煮・トマト・タマネギを炒める。
 得意料理のひとつである。
 皿に移す途中、皿がテーブルから落ちた。
 床に散らばった豆を半泣きで片づける。
 鍋に少し残っていた分で夕食だ。
 夜8時半から映画を観に行く。
 米映画 "Million Dollar Baby" に出てくる人々もみな孤独。
 クリント・イーストウッド演ずる老トレーナーは
 イェイツの詩を味わうためにゲール語を独習する。
 なかなか渋いと思う。

6/4
◆胡麻豆腐
 公民館での料理教室に行く。
 第2回目のテーマは「精進料理のだしの引き方」
 だしは「引く」ものだとは知らなかった。
 さて、大変なのは胡麻豆腐の作り方であった。
 胡麻をすり鉢ですり、水を加えて布袋で漉す。
 吉野葛を混ぜ、とろ火で時間をかけて練る。
 これだけで1時間を超える。
 他の料理作りも同時に進行していたが
 胡麻豆腐に関わっていると他を見ているヒマがない。
 というわけで、今回もよく理解できぬまま終了。
 時間をかけた胡麻豆腐も、食べれば一口でぺろり。
 他の料理は煮染め・飛龍頭(がんもどき)・吸物。

6/5
◆虫のシーズン
 台所ではゴミ袋のまわりを小バエが飛ぶ。
 東南アジア的というか、昔なじみの光景である。
 庭には雑草が生い茂る。
 かつて裏の家に人が住んでいたころは草を刈った。
 「蚊の発生源」との苦情が出るからだ。
 いまは裏も空き家となり、荒れ放題。
 雑草はむしろ侵入者を防ぐのに役立っている。

6/6
◆マンゴー
 深夜の3時半に目が覚めた。
 寝る前に変なものを食ったせいだろうか。
 マンゴーの缶詰を100円という安さゆえ買った。
 別に食べたいわけでもなかったんですがね。

6/7
◆金言
 DVD でアニメ映画「イノセンス」(押井守監督)を観た。
 話は小難しく、セリフも各種の引用に満ちている。
 次の格言は2度も語られ、監督のお気に入りらしい。
 「ロバは旅をしても馬になって帰ってくるわけではない」
 あれれ、この格言は偶然にも朝読んだ本に出てたな。
 山本夏彦『『室内』40年』(文春文庫)では金言扱いだ。
 しかし、ぼくとしては同じ趣旨のゲーテの言葉を好む。
 「人は旅に出て、結局、己の持っていた分だけ持って帰る」
 これは昔、恩師から聞かされて覚えた。
 海外留学しようとする弟子に向かっての言葉だ。

6/8
◆ひんしゅくもの
 夕方、学生サークル棟の前で焼肉パーティー。
 夜7時40分から講義があるんだけど参加した。
 もっぱら野菜を食べようと心がけながら
 なぜかお肉ばかり摘んでいた。

6/9
◆路チュー
 夜間部のゼミの後、帰宅する途中、見てしまった。
 電車通りに面した駐車場でのキスシーンである。
 男は普通の若者だが、女は中学生か高校生。
 駐車場のまんなかで、二人は凝固していた。
 先日、講義でちょうど「路チュー」の話をしたばかりだ。
 「路上でチュー」の略なのだが、学生たちから叱られた。
 そんな言葉は存在しないというのである。
 そうか、一昔前の言葉で、もはや死語なのか。

6/10
◆国立大学法人
 鹿児島大学で開かれた会合に出る。
 大学に関わる諸問題を考えるための集まりだ。
 ぼく以外はみな鹿大の教員だった。
 したがって話題のほとんどがやや縁遠い。
 学長選挙、予算配分、任期制、裁量労働制……
 やはりまだ内向きの議論が続いている。

6/11
◆無頼派
 本屋で白川道『病葉流れて』(幻冬舎文庫)が目にとまる。
 著者紹介によれば、ぼくよりやや年長だが、同じ大学。
 話自体も主人公が大学の寮に入るところから始まる。
 昔の寮生活のあれこれが描かれていたので
 これは読まねば、とそのままレジに持って行く。
 しかし、本の主人公は入学後すぐ博打の道に入ってしまう。
 つまり、ぼくの思い出と重なるのは冒頭部分のみだった。
 しかも、語りが説教臭いのも何だかな〜の印象。
 博打をとおして普遍的なことを語ろうとするので白ける。
 阿佐田哲也『麻雀放浪記』ほどの真実味も迫力もない。

6/12
◆無頼派(2)
 吉永マサユキ『へたれ』(リトルモア)には満足した。
 ある書評での絶賛につられ、ネットで注文した本だ。
 大阪の下町で育った「不良」の自伝だが
 文章(流れるような大阪弁)に少し惚れた。
 めちゃくちゃ破天荒な不良行為の数々も
 いかにもあの辺じゃありそう、と思わせる。
 昔読んだ稲田耕三『高校放浪記』(角川文庫)と
 似たような香りもするが
 それはどちらも基本が「まじめ」だからだろう。

6/13
◆効く効く〜
 家の外にナメクジ駆除剤を撒いておいた。
 雑草をかきわけて、その効き具合を見に行く。
 おお、ナメクジたちの累々たる屍。
 道理で最近は家の中で見かけぬわけだ。

6/14
◆ワイハ〜
 ハワイで買ったアロハシャツが自慢だ。
 お上がCool Biz(軽装)を呼びかけているので
 ますますこれ見よがしに着用し
 学内を闊歩して恥じることがない。

6/15
◆ WE WILL ROCK YOU
 妻のことを「うちの奥さん」などと紹介する輩は
 面接の場で父を「お父さん」と称する学生と同罪らしい。
 言われてみればその通り、と反省した。
 さて、で、愚妻(あるいは豚妻)からコンサートに誘われた。
 クイーンの公演に行かないかというのである。
 えっ、そのためにだけ上京するのか〜?
 ためらっていると即座に結論。
 「わかった、じゃ、娘と行くから」

6/16
◆首大(くびだい)
 都立大学→首都大学東京への改編にともない
 大学のマークも陰鬱なものに変わった。
 首大の行く末を暗示するとの声もある。

6/17
◆試写会
 夕方、映画館の前に長蛇の列。
 試写会の招待券に当たった人々の列である。
 ぼくはお金を払って「サハラ」を観たが、客はぼく一人。

6/18
◆公共図書館
 公民館での料理教室に通うたびに図書室に寄る。
 おもしろい本があれば借りるつもりだが
 ぐんと目をひくものが見当たらない。
 『ダヴィンチ・コード』のようなベストセラーは
 どの公民館でも「現在貸出中」と検索機が応える。
 こうして毎回手ぶらで帰る。

6/19
◆家族湯
 朝、地元テレビの番組で「家族湯」特集を観た。
 川沿いの露天風呂など、どこも楽しそうだ。
 そういう風呂に入ってみたいと思う。
 恥ずかしながら、永年の夢である。
 家族湯は鹿児島では健全なものとされ(半信半疑)
 若いカップルも平然と順番待ちしている。
 んでも、ぼくの場合、じゃあ誰と行けばよいのだろう。
 一人で家族湯ってのは間が抜けてる。

6/20
◆ハワイアン
 DVDで米映画「ジョー・ブラックをよろしく」を観た。
 映画はしょーもなかったが
 エンディングで流れる音楽にはしびれた。
 ウクレレの弾き語りによる "Over the Rainbow"だ。
 画像を静止して歌い手の名を読み取る。
 Israel Kamakawiwo'ole というハワイ人だった。
 ネットで調べたら、けっこう有名人だがすでに故人。
 ものの弾みで彼のCD"Facing Future"を注文してしまった。
 ハワイアンは好みじゃなかったんですがね。

6/21
◆エロおやじ?
 基礎ゼミの学生(1年生)から厳しい批判。
 ぼくが別の授業で提出させたレポートに書かれていた。
 学生はぼくが下ネタに話をふる点を非難する。
 基礎ゼミが発想力の訓練の場であることは学生も承知し
 あえて「変なこと」を考える必要性は理解しているが
 「それにしても」というのである。
 その頻度が過剰と判断された。
 たしかに、不快がらせるのも狙いの一つではあったが
 Too much と指摘され、しばしうなだれる。

6/22
◆泣きのツボ
 韓国映画「僕の彼女を紹介します」(04)を薦められた。
 薦めた学生は「感動して泣きじゃくった」んだそうだ。
 同じ女優の「猟奇的な彼女」(01)なら観たことがあるけど
 学生を泣きじゃくらせる映画とはどんなものか。
 ところが、とんでもなく頭の悪そうな作品だった。
 それでも多くの若者はこういう映画で泣くらしい。
 そういう意味では勉強になりました。

6/23
◆永盛温泉
 山奥の看護専門学校に行ったついでに
 さらに奥地の温泉を訪ねてみた。
 農家のおやじが自宅を銭湯に改造したような温泉。
 素人大工っぽい作りだ。
 あぜ道の突き当たり、誰も来なさそうな場所なのに先客あり。
 田舎なら客同士で挨拶するのが礼儀のはずだが
 この先客(ジーサン)は知らん顔している。
 都会の風はこういうところにまで吹いてきたか。

6/24
◆深夜バス
 1時間に1本とはいえ深夜もバスが走るようになった。
 鹿児島市の都会化の証である。
 雨の日、自転車に乗れない日でも繁華街に行ける。
 普通の大人ならタクシーで帰るんだろうが
 ぼくの場合、その1200円が痛くてしょうがない。
 深夜バスのコースは特別で、バス停は家から少し遠い。
 でも、バスで帰れるのが嬉しい。

6/25
◆来街者調査
 鹿児島市の西の山中にある西郷団地に行く。
 一戸建て住宅が建ち並ぶ大団地である。
 ゼミの学生たちがショッピングセンター前に立ち
 通行人に聞き取り調査している。
 ぼくはその光景をデジカメで撮るだけ。

6/26
◆恥じらい
 繁華街に醤油ラーメンの店が新規開店したと
 タウン誌で知り、夜フラフラと行ってみた。
 店員に「雑誌で見た」といえば半熟卵がつく。
 店内にいる客は若い女性が多い。
 だもんで、この無料サービスは大声では頼みにくい。
 小声で頼んだら店員も小声で返事。
 (→まるで落語の「うどん屋」

6/27
◆ラ・クカラーチャ
 丸々太った大きなゴキブリと出会う。
 小金持ちが住む隣のマンションで育ったのだろう。
 殺虫剤を噴射しながら追い回してしとめる。
 ゴキブリを笑って見逃せないのが日本人?

6/28
◆洗濯機を回しながら
 早起きしたついでに洗濯をすましちゃおう。
 朝7時、すでに室温は高く、座っていても汗が出る。
 鹿児島に暮らしながら、いまだにエアコンを持たぬ。
 おかげさまで毎年、夏は夏らしく過ごしとります。

6/29
◆カルチャー三昧
 うちの学校の図書館で本を借りるのが「マイ・ブーム」。
 始まりはダーントン『禁じられたベストセラー』からだ。
 通りがかりに新着コーナーで見かけ、手にとった。
 フランス革命直前の出版事情の研究であるが
 地道な研究と軽妙な語り口の融合に感心する。
 以後、岩波の「グーテンベルクの森」シリーズを渉猟。
 わが国の知識人たちの読書遍歴自慢話である。
 南アフリカの文学、クッツェー『恥辱』も楽しんだ。
 教え子に手を出し、転落する大学教員の物語だ。
 いまは坪内祐三『文庫本福袋』から刺激を受けている。
 紹介されている文庫本をどれも読みたくなる。
 軽チャーの世界にどんどんハマっていく。

6/30
◆終わりの始まり
 うちの学校も自己点検作業を進めている。
 先日、その報告書の一部と学長のメモが教員に示された。
 教員たちに危機意識がないのが最大の課題らしい。
 すでに学園は滅亡の過程に入っているのに
 ほとんどの教員は脳天気なまま……。
 あ、これはぼく独自の恣意的な要約。
 メモの陰鬱なトーン、ぼくはけっこう好きだな。

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