●多様性を積極的に受容する身構えにおいて
一歩先を行くキャピタリスト(前衛としてのアナルコ・キャピタリスト)
・人間の多様性=社会発展のバネと観念する
・異物を刺激剤として肯定し吸収し活用する
唯物論者はまだお説教をしている段階(実践における遅れ)
・正論によって人は動く・変わるという信仰
・多様性の積極的受容の作法が身体化していない
プルードンを読みなおす意義がここにある
参考文献:リヴィエール版全集
『教会と革命における正義』……略記Jus.
『労働者階級の政治的能力』……略記Cap. ([
] 内は邦訳頁,三一書房)
●集合存在の独自の力,創発性への着目
集合力
「あらゆる集合体において,協業による合力は個々の要素と本質的に性格を異にし,力の大きさも個の総和を上回る」Jus.
3-425.
集合理性
「集合理性は総合的な観念にたどりつくが,それは個々の自我が出す結論とまったく異なるばかりか,しばしば逆だったりする」Jus.
3-253.
対立の重要性
「いかにして集合理性あるいは公共理性は構成されるか。それは絶対と絶対との対立による」Jus.
3-229.
「心的諸機能の葛藤,相互作用が内部のバランスの原理である……。社会についても同じことがいえる。社会集団を構成する諸力(都市,同業組合,会社,家族,諸個人)の対立こそがその安定の第一条件なのである。じっさい,調和といい和合というとき,かならず対立しあう諸項の存在が前提される」Jus.
3-256.
個のとるべき態度
「競争を連帯に変え,統一を系列に変える……この転換は,個が個であることを非難するものではない。集合理性はわれわれにこう語りかけている。人間よ,市民よ,労働者よ。みな各自各様のままでいなさい。それぞれの個性を保ち,発展させなさい。自分の利益を守りなさい。自前の思想を産み出しなさい」Jus.
3-253.
「自らによって律される自由。これこそわれわれの革命的哲学全体の基礎であり奥義である」Jus.
3-254.
集合性が自由の根拠
「人間は自由である。自由でないはずがない。なぜなら人間は複合体であり,複合体であれば法則的に必ず固有の力である合力を産むからである。人間という複合体は肉体と生命と精神から成り,さらに下位区分される特殊な諸機能をあわせもつが,それらの合成は部分を構成する諸原理の数と多様性に比例して,肉体や生命や精神それぞれの法則に優位する力となるはずだからである。まさしくそれをわれわれは自由意志
libre arbitre と呼ぶ……。
集合性にまつわるこの力によって……人間はあらゆる内的・外的宿命から解放され,自律した生活の主人公となり,神のような絶対者となる……。[しかし,神とちがって]人間はマルチプルで複雑で集合的で進化するものであり,世界にとって不可欠の要素である」Jus.3-408〜409
●自由の機能――何のための自由?
◆美しくも生きられる,下品にも生きられる
「人間は自らの方向を自由な意志によって決め,自然の定めに従いたくなければそうすることもできる……。自らが選ぶ道にそって,人間は自由のおかげで自分の外貌・考え・言葉づかい・所作・品行・生産物に高貴さや詩もしくは下品さを与える。このことが知性というもの以上に人間を他の動物たちと区別するものとなり,自らを制御する力の証明となる」Jus.
3-411.
「崇高 le sublime
と美,一言で言えば理想に向かうか,それとも逆に下劣と醜悪,すなわちカオスに向かうか,そこにこそ人間の人間らしい営み,自由の機能がある」Jus.
3-412.
◆想像力は知性より大事
「知性とは何か。それは写真機のようなもの。さまざまな現象やそれらの関係,現実に含まれるものすべてについて心的な表象を与えてくれるが,それ以上のものではない。ところが,崇高や美というのは現実を超えたところにある。画家の手によって描かれた肖像画と写真機による画像の差……。想像力とは既知の諸関係を結びあわせ,新たな組み立てを試みさせ,仮説をたてる能力であり,ときには事実から可能性へ,さらには空想へと飛翔する能力なのである……。
数学者,技師,物理学者,博物学者,産業者は自然を模写するだけ。詩人や画家はそれ以上のことをする。自然を模倣しながら理想を表現する。理想は現実のなかにはなく,したがって悟性のなかにはない……。美や崇高といった観念を生み出し,それを感性でつかまえるには,新しい能力が必要だ……。この能力が,わたしのいう自由である」Jus.
3-412〜413
●美意識の大切さ
◆真理そのものは下品
indecente
「哲学においても,証明の厳密さとかロジックに難がないだけでは不十分である。哲学にもエスプリや雄弁さや洗練が求められる。一言で言えば美が必要だ。相手を論破するのがすべてではない。説得し,感動させ,喜ばせ,つき動かさねばならない。純粋で抽象的な観念は真理の半分でしかなく,しかも真理そのものは本質において下品なのだ」Jus.
3-414.
◆生産効率を下げても,なお捨てがたきもの
「政治経済学でいえば,美の誘惑は生産・安楽・安価といった労働の真の目的を忘れさせる。フランス人は富裕になることよりもエレガンスを好むので,手間仕事よりも趣味的な仕事をしたがる。イギリス人やドイツ人はもっと勤勉で,もっと功利的であり,あまり芸術的でない関わり方で産業活動に燃え,より直線的に目的に接近する。だからこそフランスは他のどの国よりも保護を必要とするのである」Jus.
3-416.
●プルードンがわれわれに教えていること(とりあえずの結論)
1)集合性――複雑さこそが人間の味わい
多様性を取り込めば取り込むほど人間味は豊かになる(社会はおもしろくなる)
葛藤・対立・異物感を楽しむ力量(ゆとり)=人間としての成長
2)集合存在の創発特性
善意の寄り集まりが良い社会を作るわけではない(地獄への道,l'effet
pervert ……)
道徳を説くことのむなしさ
社会はまとめようとしてもまとまらず,まとめまいとしてもまとまる
3)自由の働き――人間はどの方向にも転びうる
高潔なのも下劣なのも人間としては等価
他者を操ること,他者に操られること(人間の尊厳の蹂躙)のみが悪
4)民衆の魂の底にある美意識に寄り添う
品位 la decence,尊厳 la
dignite を手放したくない
職人(artisan,
craftsman)の美意識――「粋」vs.「野暮」
これは説教によってどうにかなるようなものではない
民衆はもともと奢侈や華美をうとましく思っている
自他に義を押しつける武ばった生き方も民衆のものではない
野暮な連中を敵視せず排斥せず,ただ軽侮する
5)社会変革の営みも軽やかに
力まないこと
「自由のための自由」批判 (プルードンからの引用集)
●正義の定義
「正義とは人間の尊厳を大事にすること。自生的な感情であり,相互に保証されるこの尊厳を敬うこと。その人がどのような人であろうと,どのような境遇の人であろうと,また,その人を守るのにどれほど危険が伴おうと,そうすることである」
Jus.1-423.
●自由と秩序
「統一なくして,あるいは秩序なくして自由はありえないが,多様性・多元性・分散性がなければ統一もありえない。反抗・矛盾・敵対がなければ秩序もない。自由と統一あるいは秩序。この二つの理念は……たがいに背中合わせになっており,両者を分離することも,一方を他方に吸収させることもできない。われわれはそれらをバランスさせ,どこまでもこの二つとともに生きていくしかない」
Cap.200 [213〜4]
●相互主義 le mutuellisme
(相身互いという生き方)
「社会の成員が相互に,サービスにはサービス,信用には信用……,善意には善意,真実には真実,自由には自由,所有には所有……を約束し,請け合う。こうした相互主義が存在すれば,われわれの絆はもっとも強力に,もっとも細やかになる。ひとびとをまとめる秩序はもっとも完全になり,不快さも最小化する。ひとびとが主張しうる自由の量は最大化する」
Cap.204 [217]
●相互性の条件
「完全な相互性が存在するためには,各生産者が他の生産者たちと何らかの関係をもち,相手側も同様の接し方をするなかで,生産者各自はそれぞれ活動の十全な独立を保持し,まったく自由にふるまい,いささかも個性を失わないようにしなければならない」
Cap.141 [153]
●保証主義 le garantisme
「労働者に労働を保証するためには,生産物の販路を雇主に保証できなければならなかった。議会にはそれができず,中央集権的・反相互主義的でアナーキーな商業封建制と結託したいかなる政府にも根っから不可能なことである。わたしは諸君に言おう。国内市場あるいは輸出のために働いている商工業ブルジョアジーにはその商品の販路を保証しなさい。そうすればブルジョアジーも諸君に労働と賃金を保証するであろう」
Cap.348 [370]
●誤った自由主義
「自由貿易を唱える理論は哲学的な体裁をとって,今日やたらに普及している……。この理論は根本的に誤っている。芸術のための芸術とか,恋愛のための恋愛とか,快楽のための快楽とか,戦争のための戦争とか,政府のための政府など,周知のごとくこれら信用ならぬものと同列だ。これらはすべて,道徳・科学・権利・論理の法則・自然・精神を捨象したものであり,結局のところ自由のための自由という表現にゆきつく」
Cap.354 [375]
●自由放任の弊害
「たしかに税関はもっとも不愉快な機関のひとつである……。労働と交易を保護するはずが,しばしば時代遅れの産業やバカな企業のためのものに変わってしまった……。だから,わたしは税関を弁護しようとは思わない。税関のしごとはもはや不要だ。わたしはただ税関の意図を正当としたいだけ……。この制度の目的・初志は,生産者と交換者のあいだに保証の関係をつくりだすことにあった。その直接の成果は労働者に対する労働の保証であった」
Cap.349〜350 [371〜372]
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