[矛盾というよりアンチノミーがキーワード] 第一巻の目次 プロローグ [神の仮設]
第1章 経済科学について §1 社会経済における事実と理論の対立 現状(伝統)を肯定する政治経済学とユートピア(空論)を語る社会主義。エゴイズムを賞賛する経済学と共同体を賛美する社会主義。 §2 理論と批判の不十分さ 対立する2項の上にたち,そのアンチノミーを解消する第3項(ヘーゲル的)など発見しえない。(『所有とは何か』ではそれを期待した)。不易と流行(conservationとmouvement)をともどもに把握する視点が必要。現存するものにはそれなりの根拠があり,しかも,それを存在させている根拠そのものによって弊害が生じている。そして,これが変革の根拠となる。 第2章 価値について §1 使用価値と交換価値の対立 使用価値の生産が倍増すれば,その交換価値は半分以下になったりする。同じもののなかで価値が対立するのは,これを生産者の視点で見るか,消費者の視点で見るかの違いによる。 §2 価値の構成――富の定義 生産物を個々人の視点で見るのでなく,社会(集合的人間)の産物として見る。そのとき社会の豊かさは生産物の量のみならず,生産物の多様性(質)およびプロポーションとしてとらえられる。社会において,何をどのぐらい生産すればよいのか,この比例性こそが正義である。社会を全体として見れば,生産者はそのまま消費者であるから,このとき価値とは比例性の表現にほかならない。これがいわゆる価値の構成。(テーゼ,アンチテーゼに並ぶジンテーゼとも言うあたりはプルードンの混乱) §3 価値の比例性の法則の応用 集合的人間(=社会)の経済的な営みのありさまを検討してゆきたい。善(自らの福祉)をめざす営みが,いかにして悪に転化するか。冨の増産の流れにそって,事実をつぶさに眺めると,すばらしい成果と悲惨な成果の同時並行が見えてくる。 第3章 第一エポック――分業 §1 分業の原理からの敵対的な帰結 分業は冨を増大させるが,同時に精神を堕落させ,文明の中の貧困を生みだす。労働の細分化は人間のもっとも高貴な部分を失わせ,人間を家畜並みにする。技術が進歩すればするほど,職人は退歩する。 §2 一時しのぎ的な手段の無力さ 分業の利点のみを保持して弊害のみをなくそうとしても,それは不可能である。なぜなら両者とも分業の本質的な属性なのだから。アンチノミーは解消不能。 第4章 第二エポック――機械制 §1 機械の役割――自由との関係において 機械の導入は,生産性をさらに向上させ,かつ労働者を単純反復作業の苦痛から解放する。すなわち,分業のアンチテーゼ。 §2 機械制の矛盾――資本と賃労働の起源 ところが機械化は同時に労働者を不要にする。かつ,機械制の下では資本が生産の主要素となり,工場の大規模化と職人の賃労働者化がそれに続く。さらに労働者は機械の奴隷となる。 §3 機械制の弊害の防止策 弊害を除去しようとして機械制以前の状態(自給自足)に戻ることは退歩であり,不可能である。 第5章 第三エポック――競争 §1 競争の必要性 競争は,分業が生みだし機械が激化させた労働者の奴隷化の克服として現れる。競争は自由の代名詞であり,冨の増大に貢献する。 §2 競争の弊害――自由の破壊 競争は敗北者を生み,労働者からパンを奪った上で,それを節約と呼び,改善と呼ぶ。しかし,競争がこの恐ろしい性格を失えば,それは同時に競争のすばらしい成果の喪失につながる。 §3 競争に対する治療策 社会主義が無政府的な競争に反対することには理があるが,競争を規制するアイデアはいただけない。最高価格法の愚の繰り返し。彼らによる改革は,せいぜい国家による独占か,あるいは共同体による専制に帰着する。 第6章 第四エポック――独占 §1 独占の必要性 独占は競争の対立物。競争の目的であり結果である独占は,分業・機械・競争が必然であったように,同じく合法則的である。独占は勝利をおさめた自由の表現であり,人間はこれによって個としての自己の存在を確認する。 §2 独占がもたらす労働災害と思想の堕落 独占によって価格は恣意的なものとなり,労働者は自らの生産物を買い戻すことができなくなる。生産と消費のバランスが崩れる。冨の総量は増えても,労働者にもたらされるのは貧困の増大でしかない。また,個として自立した独占者は社会に敵対するようになる。 第7章 第五エポック――治安,租税 §1 租税の総合理念――この理念の起源と発展 租税は独占に対する社会のリアクションである。偏って独占された冨を吸い上げ,道路・病院などの形で貧者に環流させ,冨の公正をはかる。 §2 租税のアンチノミー 比例性(公正)の原理にしたがえば,租税は貧者に重くなる。租税は公正を実現しようとして公正を破壊する。 §3 租税につきものの害悪 租税の徴収と還元を司る国家は,自立したとたん労働者に敵対したものとして現れる。プロレタリアートを守るためにできた警察も,丸ごとプロレタリアートに敵対する。 第8章 矛盾の法則のもとでの神の責任と人間の責任 §1 人間の罪――原罪という神話の解説 社会に生じる様々な悪弊は人間の責任か。だとすれば,教育によって個々の人間を善導すれば社会は良くなるのか。教化でことの解決をめざす空しさ。 §2 神の摂理という神話の解説――神の後退 フォイエルバッハなどは,個別的自我に集合的自我を対置し,これが神の正体だという。しかし,そう言い切ったからといって社会が変わるわけでもない。神の摂理を社会の法則と言い換えただけ。人類=神とみなすことは,現状を肯定し,共同体に身をまかせよというに等しい。われわれはむしろ,人類にとって神(神が存在するとして)は敵だと言いたい。(無神論ではなく反神論)。宿命とされるもののなかから,人類(集合存在)の法則を発見したい。[人類とは,自分が属するものでありながら,自分に敵対するもの] 第二巻の目次 第9章 第六エポック――貿易のバランス §1 自由貿易の必要性 社会はプロレタリアートに対する償いを自らの内部に求められないと見ると,その保証を外部に求めようとする。生産性の向上は販路の無制限の拡張を求める。自由な交易(競争の原理の国際版)は冨を増大させ,人々の暮らしを良くする。 §2 保護貿易の必要性 しかし,安価な生産物の輸入は多くの産業に打撃を与える。自由貿易は資本の巨大な封建領主たちの神聖同盟であり,それは小さな産業を押しつぶし,プロレタリアートを決定的に従属させる。 §3 貿易のバランスの理論 大事なのは自由と保護の均衡だ。新奇な解決策はない。解決のための素材はすべて現実のうちに存在する。 第10章 第七エポック――信用 §1 信用の理念の起源と系統――この理念にかんするさまざまの矛盾した偏見 貿易は販路(欠落したバランスの保証)を国外に求めるものであったが,その望みはなかなかかなわない。そこで販路を国内に求める,それが信用である。信用は国内経済の活性化をめざす。 §2 信用制度の発達 信用によって,すべての労働,すべての価値が金銀貨幣と同様の地位を得,動きのとれなかった価値も流通しだす。信用は労働を解放し,社会の冨を増大し,個人の福祉を向上させる。 §3 信用の虚偽と矛盾――それによる秩序破壊と貧困の激化 しかし,信用はその本質そのものによって必ず堕落する。すなわち,投機的な精神を生む。宝くじのように,人は自分が与える以上のものを求めようとする。うまく立ち回らねば損をする。こうして多数者はむしりとられる。 第11章 第八エポック――所有 §1 所有は経済の系列のなかでのみ説明可能――常識の形成、あるいは確実性の問題 所有を論ずる方法について,プルードン自身の反省。その矛盾を示すだけでは不十分。アンチノミーの系列的連鎖のなかでとらえねばならない。 §2 所有成立の原因 所有は信用の弊害克服として現れる。投機的精神により生産者は労働意欲を失い,土地・自然から離れ,空中に浮遊する。フィクティフな価値のみが増殖する。人間を実体の世界にもどす,これが所有だ。所有によって,人と土地が結びつき,家族生活(たしかな手応えのある生き方)が安定する。独占の段階では保証が一時的だったので,所有は独占の高次化ともいえる。 §3 所有はどうして堕落したか 高次化された独占としての所有は,独占の弊害をも激化させる。所有とは,ものを使用し濫用する権利であり,したがって専制である。所有は人と人とを分離・敵対させる。 §4 所有による神の仮説の証明 宿命(法則的な流れ)と進歩(主体的な営み)が,存在の二様のありかただと観念する。神と人間の対立と見たてる。 第12章 第九エポック――共有[共産主義] 所有の否定,それが共産主義。 §1 共有は政治経済学から生まれる 所有が独占の高次化であるように,共有は国家の高次化である。共有は所有の失敗したところから立ち上がる。そのかぎりで,それなりの存在意義がある。 §2 固有のもの[所有]と共有のものの定義 共同性は普遍的な現象であり,強大な力をもつ。個性も共同性もともに大事なもの。人は酔っぱらいのように,所有と共有の二極のあいだを揺れながら歩く。 §3 共産主義の問題の提示 共産主義のモットーは「友愛」だ。 §4 共産主義は最後に来るべきものを最初にもちだす われわれは互いに友(兄弟)だというのが共産主義の前提であり,かつ最終目標。 §5 共産主義はその原型であり具体像である家族とあいいれない 家族のなかで人間は自分の自分らしさを発見し,育ててゆくのに,共産主義は自由な性関係や共同炊事などで家族関係を解体する。 §6 共産主義は分配の法則なしではありえず、分配の法則によって滅びる §7 共産主義は組織の法則なしではありえず、組織によって滅びる §8 共産主義は正義なしではありえず、正義によって滅びる §9 折衷的で、没知性的で、理解不能の共産主義 共産主義とは,労働の嫌悪であり,生活の退屈さであり,思考の停止であり,自我の死であり,虚無の肯定である。 §10 共産主義は貧困の宗教である 共産主義は思考・理性と無縁のものであり,論理・弁証法を恐れる。共産主義は学ばない。共産主義は信ずる。 第13章 第十エポック――人口 §1 生殖と労働によって社会は崩壊する 人口は口(消費力)であると同時に腕(労働力)である。人口を増やさずに冨を増大させるというのは,腕を増やして口を減らすのと同様に不条理。家族は社会経済の中核であり,所有の本当の目的であり,秩序の構成要素であり,労働者の働きがいそのものである。その家族が人を産み,冨を産む。しかし,人口の増加は冨の増加より急速。 §2 貧困は政治経済学のしわざである 豊かな暮らしをめざす営み(分業から共有までの諸カテゴリー)は,そのまま貧困の原因ともなった。政治経済学はこの矛盾の存在を肯定(確認)するだけ。貧困は放置された。われわれがなすべきは,矛盾を克服しようとする経済カテゴリーの連鎖をきちんと把握し,集合存在としての経済社会の動的なバランスを追求すること。 §3 人口の均衡原理 人間(個であれ集合であれ)における発達とは,宿命から自由へ,本能から理性へ,物質から精神へ向かうことである。労働も芸術に接近し,男女の愛も高次化する。生殖の営みにも分別が生じる。 第14章 要約と結論 アンチノミーこそが生命と進歩の法則,永久運動の原理である。対立する二つの力の一方が抑制されると,個人の活動は社会の権威に屈し,組織は共産主義に退行し,やがて無にいたる。逆に,個人のイニシアティブが反対物(contre-poids)をもたないと,集合組織は腐敗し,文明はカースト,不正,貧困の体制の下に入る。 |